おっさんと銃 ~準備編~

隠れたバリケードから、顔を覗かせる。

途端に銃声が響き渡り、怒り狂うスズメバチの群れがぶつかる様なバチバチという音が壁に弾けた。

味方は意に介した様子もなく、点在するバリケードを飛び移る様に、或いは怯む様子すらなく優雅に歩いて行く。

みんなどれだけ心が強いんだ・・・!緊張に押しつぶされそうになりながら、すがる様に己の銃を握りしめた。

新兵もベテランも関係ないと言わんばかりに手の中のずっしりと重く、当たれば倒せるという自己主張を続けていた。

このまま終わってたまるかっ・・・!

・・・行くぞッ!

あ、ヒットー。もうやられた・・・戻るか(ションボリ

  • ・ ・

「定例会」と呼ばれる日である。

サバゲー場の特にイベントでもない、一般的なゲームの日の一幕であった。

ゴメンてちょっとカッコつけたかったんだってぇ。

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都営新宿線に揺られ、めったに乗らない京成線に乗り換え、たどり着いたのは千葉某所。

先輩によると千葉はサバゲー場が多数存在する主戦場との事であった。戦場て。

あらかじめ予約をし、駅前から送迎の車両を待つ。

早朝から大荷物を抱えて座り込む男性が数人。ちょっぴり珍しい光景であった。

後から知った事だが、愛銃を数丁持ち込むのは当然とのこと。

一丁2kg前後、BB弾、戦闘服、飲み水、お弁当。すげえなサバゲー愛。

時間ぴったりに到着したワゴンに揺られ、人通りの少ない道を行き、たどり着いたは森の中。

土を固めただけの簡素な駐車場、砂利の上にテーブルとテントが張られた準備スペース。

ワイワイと銃の手入れをする迷彩服の男達。ここが・・・俺の戦場・・・!

会社の上司とその相棒の方に挨拶を交わし、いざ受付へ。

料金を支払い、初心者パックの内容物を受け取る。

レンタルガン:淡い茶色のホッとする色合いのマシンガン。

上司によるとマシンガンじゃないの!アサルトライフル!とのこと。

どう違うんすかもー。

弾丸    :0.2g弾 5000発。

       こ こんなに使うの・・・?

戦闘服   :迷彩ツナギ。

       腹の出っ張りも迷彩で隠れたらいいのに。

防具    :フェイスガード。

       プラスチック製。サンセイというその道では有名なメーカーの名作防具らしい。

年甲斐もなく目が輝いた。銃も装備も戦争のために生まれた道具だろうが、目的のために作られて洗練された道具は美しいものだ。

セーフティエリア(準備スペース)で撃っちゃいかんけど、撃っていい場所があるから調整に行こうぜ、との上司の言。

何調整するんやろ?と首をかしげていると、ホップ調整とやらをするとのこと。

BB弾をまっすぐ飛ばすよりバックスピンをかけて浮き気味の飛び方にして、遠くまで飛ばす調整をするそうだ。よく考えられてるなあ・・・。

そんなわけで防具を着用し(迷彩服にマスク 既にテンションが高い)、シューティングレンジ(銃を撃っていいスペース)へやってきた。

手前側に机が数台並び、広いスペースに20m、30m、40mとの看板が立っている。

先客が既におり、机に数丁の銃を置き、職人のような鋭い目付きで看板や立ち木を撃っていた。

ちょっとその銃貸して、調整するから、と伸ばされる上司の手。

自分の持ち物ではないはずの銃の小さなフタを開けて慣れた手つきで何やらカチカチ。

あらやだ頼もしい。

渡した銃は荒々しい工事現場の様な音で火を噴き、30mと書かれた看板に銃弾が弾けた。

ちゃんと調整されてるね、練習してみと渡された銃をおそるおそる構える。

どうやって狙うかもわからないまま引き金を引くと、ずっしりとした重み、大人が両手で構える大きさ、それらに詰め込まれた機械類が躍動した。恐れる気持ちを鼓舞するかの様な真っ白いBB弾達が宙を切り裂き、20mと書かれた看板付近の立ち木にパララッと軽快な音を立てた。

・・・体に電流が走った。今なら分かる、アニメやマンガ等で悪役が

「ヒャッハー!汚物は消毒だあ!」等と言いながらマシンガンをぶっ放す気分が・・・!

あれ、北斗の拳のあの場面って火炎放射器だったっけ?

これが・・・これが「武器」か!というテンションの高さになったが、上司の「じゃああの20mの看板狙ってみ」の一言で現実に戻された。ぜ、全然当たらねえ。

うーんヘッタクソだなー(笑)まあ一発当てるだけでいいルールだし、どんどん撃ってこう。

とのおやさしい言葉。・・・弾5000発もらったんですけど5000人倒さなきゃ勝てないんですか?といったらはたかれた。分からんから聞いたのにー。

マガジン(弾を入れるところ。弾倉とも。)いっぱい弾を詰めてきたなら300発(!?)は撃てるから練習しよっかー、というお言葉に甘えて撃ちまくっていると、そろそろ集まってくださーいとのスタッフの掛け声が聞こえた。

い、いよいよか・・・!(ゴクリ)

毎日叱られまくり、ションボリするだけの人生とはオサラバ!ここからは銃と戦いを愛する男になるんじゃぁい!

そんな事を思いながらグフグフ笑っているプラスチックのマスク&腹の出た迷彩服ツナギの男が一人。シャバにいられるギリギリの気持ち悪さである。

次回!

おっさんと銃 ~臨戦編~

サバゲー、それは心に戦場を拓くもの。

続く。

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